問 人が暑い、寒いと感じる要因は何ですか?

 断熱によって、建物の建物内への熱の侵入や建物外への熱の放出を抑止すれば、そのまま省エネになるというものでもありません。建物内の室温がある程度の温度帯に制御され、居住者の判断が介在し、空調(エアコン)の設定温度が省エネ運転になって初めて省エネが実現されます。

居住者の判断は、千差万別です。暑がりな人、寒がりな人、男女差、年齢差と様々です。そこで、温熱環境の評価を定性化する目的で、新標準有効温度SET*(エス・イー・ティー・スター)という指標が、学会主導で推奨されています。
SET*とは、環境側の温度・湿度・放射・気流と、人体側の活動量・着衣量の6つの要素が考慮された温熱指標です。SET*が22.2~25.6℃のとき、被験者の80%以上が「涼しい、あるいは暖かい」という快適感を得ます(快適域)

そこで、湿度50%、気流0.5m/s、活動量1.2met、着衣量0.6cloに固定し、温度、放射温度を22℃~32℃まで変化させてSET*を求め(pythermalcomfortを使用【https://doi.org/10.1016/j.softx.2020.100578】)下表にまとめました。緑色部分が快適域で、そのエリアの右側が暑くて不快、左側が寒くて不快となります。
夏期の真夏日では、室温26℃でも放射温度が30℃ということがよくあります。この放射温度を27℃程度まで抑えることができれば、SET*=24.8℃となり、快適域に到達します。放射温度を30℃のまま、室温を下げて同等の快適感を得るためには、室温は24℃まで下げる必要があり、これは、省エネに逆行することがわかります。
この結果から、断熱ありきの省エネからの発想を転換し、放射温度を積極的に抑止する手法を考案することとしました。

環境側の温度・湿度・放射・気流と、人体側の活動量・着衣量の6つの要素で暑い、寒いを評価することができます。中でも、 放射温度を抑制することで、居住者の判断で空調(エアコン)の省エネ運転を目指すことが可能となります。